去年の秋頃だったでしょうか。自宅から徒歩でも行ける距離に複合商業施設が出来、その4階フロアにMOVIXが入りました。オープンの賑わいが一段落するまで待とうと思ってたのですが、今となっては逆に「この観客数で大丈夫なのか?」と、要らぬ心配をしてしまうほどチケット売り場は穏やかな空気を放っていたので、人ごみ嫌いの私には打って付けでした。毎木曜はメンズデーという、中々魅力的なサービスも用意されているやらで、今後も大いに活用させて頂く事にしましょう。








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『ゴールデンスランバー』

 

以前ここで原作本に触れたことがあるので、その文章を再読して頂けると有り難いのだが、映画を観終わった最初の感想は、「良く頑張ったなあ」というものだった。登場人物が多岐に渡り、加えて無数のプロットが交錯するので、失礼ながらきっと映画はグダグダになるのだろうと想像していた。要所要所を押えつつ、ストーリーに直接関連しない箇所は端折られ、退屈するシーンもほとんどなく、上手く纏められていたように思う。強いて言うなら、原作の台詞をダイレクトに流用した部分が多かったため、台詞のみが生かされたものの、その言葉が形容するシチュエーションは映像化されなかったという、若干の辻褄の合わなさを感じた。主人公が宅配ドライバーで、同僚が毎日同じ時刻に同じ道を通るのを知っていて、それを逃走に利用するというファクターは、原作の「習慣」という重要キーワードに直結するので、是非残して欲しかったものである。

 

あと、少々ネタバレになるかも知れないが、映画は原作の結びと同じように締められており、いわゆるハッピーエンドとなっているのだけれど、原作では前半部に、事件後の関係者それぞれを死亡や失踪とすることで、政府機関のきな臭い裏事情を描いていた。映画のみを御覧になられた方は、鑑賞数時間後、もしくは数日後に「何故主人公は犯罪者に仕立て上げられたんだっけ?」と思い起こすかも知れないが、もちろん劇中で真相は明かされることは無く、また肝心の原作においても、そこは「書くと非常に危険な部分」なので有耶無耶にされたままである。首相が暗殺された理由も、一切語られず終いだった。

 

原作を先に読んでから観た映画は、スティーヴン・キングの「ミザリー」(古っ!)、最近では奥田英朗の「サウスバウンド」ぐらいだが、巷で言われているように『伊坂幸太郎原作の映画は、どれも忠実に映像化されている』のは、この「ゴールデンスランバー」も例外ではないため、先にビジュアルに触れてしまった人が、後で活字を読んでもさほど映画の印象が変わることはないと思われるので、特にお薦めはしないでおく。タイトルにもなっている「ゴールデンスランバー」は、ご存知の方には説明不要であると思われるビートルズのナンバー。本曲が収録された「アビーロード」が昨年デジタル・リマスターで復刻されたそうだが、これはただの偶然なのか、それともアルバムリリースを待って制作に踏み切ったのか…関係性は中々興味深い。