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本そもそも私は、表紙のデザインや雰囲気で本選びをしてしまうという、可笑しな癖がある。文庫本ってヤツは、ほとんど購入の対象にならない。どうもサイズがこじんまりしてて、恰も外出先に携帯して暇つぶしをするために存在しているような気がする。実際、持ち運びに便利なように改良されたのが発祥かも知れないが、腰を据えて熟読する気が起こらない。外側が小さい分、活字も小さく感じるわけで(単なる錯覚だけど)、目が疲れてしまうというのも理由のひとつ。尤も、本の大きさと内容は全く比例しないんだけれど。第一、名著でないと文庫本にはならないんだし。

本とはいうものの、やはりハードカバーで4~5千円の本には手が出ない。そういう場合は仕方なく文庫を買うのだけれど、その価格に甘んじてしまい、ついつい積読になってしまう。高いとそれなりに、「読まなきゃ損」的な貧乏じみた発想に至るんだけど…。

本「サウスバウンド」は、たまたま「がん漂流」の最終巻が品切れで、店内を物色していたら出会った。と言うのは本当ではあるけど、それが初対面ではなく、以前から気になっていた一冊だった。前述したように、黄色地の派手なジャケットデザインに注目していたから。

本シーサーがデンと書かれている以上、これで沖縄に全く絡まない内容なら、詐欺だ。本文は2部構成になっていて、1部の後半から表紙のシーサーが意味合いを帯びてくる。前半は東京中野区を舞台に、少年が余儀なくされた波乱の日常を描いている。物騒な描写があったりもするのだが、なんとなく昭和の臭いを漂わせる下町群像劇っぽくもある。ただ、時折著者の視点が少年のそれと同一化してしまうので、少々混乱してしまう箇所もアリ。執筆しながら感情移入してしまい、登場人物と融合化してしまったとか。

本読み始めた頃は、少年が主人公だと思っていた。しかし半分くらい読み進めたあたりで、真の主人公が見えてきた。次郎少年の父親、一郎。著者の思惑に反した捉え方かも知れないが、少なくとも私にはそう感じられた。行動総てが型破り過ぎて、ある意味リアリティーには欠けるのだけど、フィクションとしては痛快な人物設定である。もし仮に映像化、映画化が実現したら、阿部寛がキャスティングされるんじゃなかろうか?等と、勝手に想いを巡らすのも楽しい。