第12回日本ホラー小説大賞受賞作
「夜市(よいち)」とは、夜の闇の中でひっそりと開かれる
市場のこと。
「夜市」は、ファンタジー色の濃い、寓話的なホラー作品で
ある反面、悲しい兄弟のお話でもある。
ホラーといっても決しておどろおどろしい内容ではない。
読むほどにビジュアル面へ訴えかける表現が秀逸であると
感じるのだが、脳内に描かれるのは現実の実映像ではなく、
むしろアニメっぽい。
過去に同じ大賞受賞作である「パラサイト・イヴ」を
読んだことがあるのだが、非科学的、非日常的に描写される
夜市とは丸で対照的だった。
物語の中核に達するまでの贅肉が見事に削ぎ落とされている。
平たく言えば、場面転換によってありがちな「集中力が途絶える」
といった現象が引き起こされることはない。舞台劇としても
立派に成立しそうな作品。
この手の本は短編に限る。「え?もう終わりなの?」と肩透かしを
喰らうこともあるが、終焉に向けて1/3を残しても結末が
見えて来ない作品は苦手。骨子が現実味を帯びていれば、
ことさらにダメ。あくまで私の場合。非現実的な作品を読んで、
想像力を働かせながら楽しみたい。
発行:角川書店 著者:恒川光太郎
徳の市マニアが高じて『夜の市』とは、参りました(誰もそんなコト言ってないって)。
それにしても、荒鬼さんが普通に一般向け小説の書評を書くと逆に新鮮ですね(失礼その1)。ていうか荒鬼さんが朝日ソノ○マ文庫以外の小説を読んでるなんて初めて知りました(失礼その2)。